2022年、長野県原村に「八ヶ岳風の子保育園」が開園しました。 “ひとりひとりの 育つ力に 耳をすまそう” を合言葉に、保育士さんの人数を国の基準よりもずっと多くすることで、「子どもを管理する」のではなく、「子どもの主体的な行動を安全に見守る」保育を実現している、素晴らしい保育園です。この保育園にはご縁があり、開園以来、私は全力で応援しています。
保育園での私の主な取り組みとしては、地域の方からお借りしている畑で無農薬の野菜を栽培し、子どもたちが自由に食べたり遊んだりできる「風の子ファーム」を運営したり、保育士さんたちのご負担を少しでも減らせるよう、保育園のパンフレット、入園のしおり、お誕生日カード、卒園アルバム…などなど、様々なプロダクトを制作してきました。
全てボランティア活動ですし、寄付などもしてきたこともあり、個人的には時間的・金銭的に負担がありますが、それでも私はこの3年間、この保育園を全力で応援してきました。それはある思いがあるからなのです。
現在の日本は、子どもや子育て世代が大変生きづらくなっていると思います。物価や住宅価格の高騰、所得の低迷、気候変動や災害リスク、などなど、様々な社会的要因があると思いますが、私が一番危惧しているのは、子どもや子育て世代がもはやマイノリティになってしまった今の日本での、多数派である中高年の方々の「心の有り様」です。
高度経済成長とともに核家族化が進んだ後、現在の少子化の流れと重なって、大人が子どもに不慣れになったように思います。子どもの声を「騒音」と感じる人も、いつの間にか増えました。また、資本主義の結末なのでしょうか、社会的な利益よりも利己的な権利を優先される方も多いように思います。そのような背景もあり、もし多数派である中高年の方々が、権利のバトンを次世代に渡さなくなってしまったら…。この国に未来はあるのでしょうか。
少し別の角度からお話ししますが、おじいちゃんやおばあちゃんが存在する生物は、多種多様な種の中でも、人間・シャチ・ゴンドウクジラの3種類だけだそうです。その他のほぼ全ての生物は、生殖能力を失うと速やかに寿命を終えますが、例えば女性のシャチは閉経後も長生きをします。「おばあちゃんシャチがいる群れは、孫の生存率が高まる」ことが研究で明らかになっており、長生きする遺伝子が種に引き継がれるのだそうです。
一般的な生物は「食いぶちを減らすため」、「場所を空け渡すため」、生殖能力を失うと速やかに寿命を終えるのに、人間は、男性も女性もむしろ後半の人生が長い。これは、人間という「種」としての生存戦略であり、おじいちゃんやおばあちゃんが、孫や若い世代をサポートしながら生きるように「余命」を与えられている。生物学的にはそう考えてもおかしくないように思います。
少子高齢化はますます加速し、西暦2100年ころには日本の人口が江戸時代程度まで減少するのは、統計的にほぼ確定した未来です。もはや少子化を止めようなどという方法はなく、「豊かに縮小する時代」をみんなでデザインするしかないと私は思っています。そのために、未来を担う若い人たちが主役となるような、楽しい地域社会をつくるお手伝いをしたい。これが今の私の、デザイナーとしての課題の一つです。だから、私はご縁のあった八ヶ岳風の子保育園を、多数派中高年の1人として、全力で応援したいと思っているのです。
↑ 未来の社会を担う主役たち。
↓ NBS長野放送ニュースで紹介されました。